湖畔からの発信 不動産鑑定士 村木康弘のひとり言

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2015.04.09

不動産よろず相談所 個人向け不動産アドバイザリー業務(8最終回)

  9.不動産鑑定士の出番

不動産の鑑定評価に関する法律第3条2項、いわゆる隣接周辺業務が不動産鑑定士の業務として法に明記されて10年が経過しようとしている。その間、われわれはどの程度これらの業務を行い世の中に貢献したのだろうか。全然伸びていないのではないかというような印象を持っている。
 医師は人命を守り、弁護士は人権を守っている。不動産鑑定士は国民の財産(不動産)を守ると言い切った時に生まれてくる役割があるのではないか。単に、不動産を評価するという役割だけでなく、不動産に関する疑問・不安・悩み・トラブルを分かり易く紐解き、その解決策を示すというカウンセラーでありアドバイザーとしての役割である。中立で公正な立場での鑑定評価を基礎にしつつも、それを超えたところに国民の期待があるならば、今まで培った知見を糧として周辺分野の開拓、ビジネスモデル化に挑むべきである。そのような事実の積み上げによって世の中から認知され知名度も上がって来るのだろう。土地の鑑定士から不動産(財産)を守るアドバイザーへ。もちろん鑑定評価は忠実に行っていくことは言うまでもないのだか。
最近、相談者には、顧問税理士、顧問弁護士、次に必要なのは顧問不動産アドバイザーですよと囁いている。

 10.留意点

カウンセラーやアドバイザーとして行動する際に留意しなければならないのは、鑑定評価業務とコンサルティング業務を明確に分けて対応することである。どこまでも中立で市場になり代わって公正に行うべき鑑定評価業務と、依頼者の利益を最大化するために立ち回るコンサルティングは別のもの。混同すると鑑定評価の信頼性を失することになるので十分注意が必要だ。


11.おわりに

 相談にこられる資産家はご高齢の方が多い。時間が十分にあって話好きの方が多いので、打ち合わせや相談が長時間に及ぶことがある。手短に切り上げたい時もあるが、可能な限り腰を据えて相談者の話を聞くことを心がけている。人と人、一対一になれれば、信頼して戦略立案を任せて貰える。今後、資産家に寄り添って手助けする役割のニーズは増えていくだろう。
鑑定士は値踏み下手である。かく言う私自身、経営者としては及第点をもらえるか怪しいものだ。「値決めは経営」と言われるが、カウンセリングも慈善事業では続かない。近江商人が家訓とする「三方よしの精神」。買い手よし、世間よし、売り手よし。相談者が満足して世の中のためになるのなら堂々と適正報酬を頂こう。
不動産アドバイザーとしての社会貢献の場が増えることが、鑑定士の何よりのPR策であると思う。資産家に対する継続的なカウンセリングもその一つである。

2015.04.08

不動産よろず相談所 個人向け不動産アドバイザリー業務(7)

 6.アドバイスメニュー

具体の解決方法は、CRE戦略として、これまで、この連載でも取り上げられているように、書籍や論文を紐解けば枚挙に暇がない。大企業だけの話でも、都会だけの話でもない。地方だって同じこと、中小企業だって個人だって同じことである。CRE戦略として論じられていることを、相談者の知識や理解度に合わせて、噛み砕いてアドバイスすればよい。
近時、相続対策で建てた賃貸マンションを新設する不動産保有会社に移転して節税を図るケースが増えている。背景には相続税負担の増加と法人税負担の軽減という政府の施策がある。これまで、賃貸マンションを建設して建物評価を下げて相続税額を減らす策が講じられてきたが、相続税の節税効果は年々薄らぐ一方で、所得税や社会保険等の負担が高まっているケースがある。その場合に、複数の相続人を新会社の役員等に据えて所得を分散し、一族全体で節税を図るスキームを構築する。相続税に対する世間の関心は高く、資産家向けにコンサルティングしている税理士と協働すると効果的な提案ができる。移転する不動産を、土地建物一体とするか、建物だけか、借地権を設定するか等、移転する不動産の類型と時価並びに家賃・地代の設定がスキーム構築の鍵となるので、不動産鑑定士の役割が重要になる。
賃貸マンションを建てて以来、施工したハウスメーカーの営業マンだけを頼ってきたという方が結構ある。その方に資産の評価はもとより賃貸マンションの収支状況や契約書について問題の有無を指摘しアドバイスすると、保有不動産のさまざまなことを相談できる人が見つかったと喜んで頂ける。

7.クライアントの満足度

不動産戦略立案のフローは、カウンセラーからするとアドバイスの手順であるが、相談者からすると納得感を得るための過程である。自らの目標を定め、その実現のために保有不動産をどうして行けば良いのかという方向性と実施スケジュールを定めるのであるから、一連の手順を踏んで自信を持って意思決定した暁には満足感と安心感に包まれるのだと思う。従って最適な選択肢だと決め付けて一方的に押し付けるのでなく、相談者自身が納得してそこに辿り着くようなアドバイスの方法が有効である。
先日、表面利回り10%の駅近の収益マンションを購入しようか迷って相談にこられた方があった。築19年の物件で、周囲の築浅物件と比較すると設備が見劣りし、今後は賃料減少と空室増加を避けて通れないので、その金額では購入すべきでない物件であると推察できた。しかし、私の意見を先に伝えるのでなく、エクセルで資金収支計画を作成し自己資金と借入金割合や賃料と空室率の設定をいろいろ変えてシミュレーションをして貰った。すると、年々の税引後のキャッシュフロー利回りを見て愕然とされ、仮に元本を繰上げ返済して20年で返済を終えたとしても、残るのは築39年の賃貸マンションであることに気づかれ、自ら買わないと判断された。
 我々が普段当たり前のようにやっている作業や当然の知識が、伝える相手と伝え方によって価値あるものになることを体得した場面であった。自己研鑽を怠ってはならないが、高度なもの、先進的なものばかりを追いかけずとも、相談者を満足させる素材は足元にいくらでもありそうだ。

8.テーマ着想のヒント

不動産鑑定評価の過程には多岐にわたる様々な専門性がある。対象不動産の確認、資料の収集・分析、価格形成要因の分析、鑑定評価方式の適用等々いずれも単独で価値のある専門性である。また、普段から取引事例を実査して回っているので、不動産を見る目が養われている。これらの専門性を従来活かしてこなかったため、世間一般で不動産鑑定士と一般の個人や中小企業とは接点が殆ど無かった。スポットで相談に来ていただいてもその方の全容が分からないと最適解が見出せない。そこで、CRE戦略マネジメントサイクルを噛み砕き、継続的にアドバイスするための簡単な仕組みに作り変えてみた。
我々には専門性がある。自信をもって、不動産で困っている人の話をきいてあげよう。一緒にしらべてあげよう。わかりやすく紐解いてあげよう。論点を整理しリスクを説明してあげよう。そうすれば、ありがとうという言葉がかえってくるはず。その先にきっと収穫があるとの思いから始めた取り組みである。

2015.04.07

不動産よろず相談所 個人向け不動産アドバイザリー業務(6)

(4)意思決定

 個々の不動産の属性と戦略について納得を得たら、何から手をつけるのか、スケジュールと優先順位決めていく。早急に行うべき事項は、具体の手続きを示す。短期的に行う事項、中長期的な事項については、実施時期と優先順位付けた計画書を作成する。

(5)実行

あとは計画書に沿って実行していく。所有者が自分でできることもあれば、アドバイザーとして手助けがを要することも出てくる。その場合は作業内容に応じて報酬をいただくこととなる。

(6)検証

何もしなくても、現状のままで良いというケースもあるが、実行サポートの有無に関わらず、年に一度はカウンセリングを行い検証する。計画通り進んでいるか、そもそもの目標が変更になってないか、個別の物件の位置づけに変更は無いか等を確認する。資金繰りが悪化してきたので物件を売却して代金を借入金の返済に充てようとか、急に稼働率が下がったので賃貸管理業者の変更を行おうとか、急ぎの対応が必要な場合も出てくる。検証の機会を待たずに、何かが起きたり、気にかかることが出来た時に、すぐ連絡が入るようになれば信頼関係が築かれた証と言える。


2015.04.06

不動産よろず相談所 個人向け不動産アドバイザリー業務(5)

(3)戦略検討

個々 の不動産の現在の利用状況に基づく属性を分類した後、今後どのようにしていくか戦略を練る。共通して言えることは、どの物件も収益性・流動性を高める方策 を考えるということ。右上に位置づけるためにすべきことと、その難易度を示す。組み替える不動産は可及的速やかに売却や権利関係の整理を行う。将来的に売 れずに無価値になる恐れもあるので、決めたら早いに越したことはない。備える不動産は、流動性の低下に注意する。賃貸マンション等の建設が必ずしも収益性 を高めるとは限らず、収益性だけを追いかけると流動性が劣る結果になることもある。相続時の納税資金を見据えて現金化し易いよう敢えて更地のまま置いてお くことも選択肢として考え得る。備える不動産に位置づけた不動産の活用方法が、相談者のポートフォリオ改善や目標達成に大きな影響を与える場合が多い。こ こもカウンセラーの見せ場の一つである。

2015.04.05

不動産よろず相談所 個人向け不動産アドバイザリー業務(4)

 5.不動産戦略の立案のビジネスモデル

スポット的な相談を機に、継続的なカウンセリングにつながるケースがある。私は以下のフローに従って不動産戦略を立案している。取り立ててビジネスモデルと言うには気が引けるほど単純なものである。CRE戦略のマネジメントサイクルと本質は変わらないが、個人の相談者が相手であるので、簡略化して平易な言葉に置き換えたものだ。

(1)所有者の目標明確化

例えば、200坪の未利用地をお持ちの場合、そこをどの様に活用しようか?から入ると最適解を得られない場合がある。その方の資産状況を把握して、まず何を行うべきか目標を明確化することがカウンセリングの第一ステップである。その土地の最有効使用が共同住宅であったとしても、借入金が多く返済負担が重い方に新たな資金調達を伴う賃貸マンションの建設を提案するのは問題で、売却して得た資金を借入金の返済に充てるのがより良い選択ということもある。要は、個別の不動産の活用を検討する前に、その方のポートフォリオを把握して、将来の目標を定めることである。

(2)不動産の棚卸し

 保有不動産を個別に調査し、現状と潜在能力を把握する。自宅であれば建物の維持管理の状態や修繕の必要性を指摘し、仮に今売却したら幾らなのか凡その時価を把握する。賃貸マンションであれば、最有効使用の状態にあるのか、入居状況、賃料水準の妥当性、契約書に不備はないか、維持管理の内容と費用は妥当か、行政法規や賃貸借の状況、借入金の条件や返済状況についても調べて問題点があれば指摘する。調査事項は多岐にわたるが、後々誤った判断に至らないために一度は洗い浚い調べておくことが望ましい。
個々の不動産をどのように利活用していくか戦略を立案するに当たっては、流動性と収益性の二つの指標に照らして、個々の不動産の属性を決めていく。縦軸に収益性、横軸に流動性を取り、それぞれ5段階で優劣を付け、個々の不動産を座標上に明示する作業である。賃料水準が高く潤沢な収益を生み出し、売りに出せばすぐ買い手が見つかるような収益性も流動性も申し分ない物件は座標の右上に位置づける。収益を生み出しておらず、売ろうにも売れない物件は左下に位置づける。個々の不動産をどこに位置づけるかはカウンセラーの腕の見せ所である。
分類した結果、右上の第一象限に位置する物件は「残す不動産」、すなわち今後も保有し続ける不動産である。左下に位置する不動産は「組み替える不動産」で、売れるなら早いうちに手放しましょうと言うもの。先祖伝来の愛着ある不動産がここに位置づけられると、処分されずにポートフォリオの改善が進まないことが起き得る。右下に位置するのは「利用する不動産」。昔から貸している土地(底地)が典型で、僅かな地代収入があるが、大幅な地代上昇は見込めないうえ、売ろうにも第三者には売れない。遺産分割未了の共有名義の物件もここに位置づける。左上に位置するのは「備える不動産」。未活用の空地等で、収益は上がってないが、すぐにでも買手が見つかり、どんな用途にでも利用できるような物件が該当する。

2015.04.04

不動産よろず相談所 個人向け不動産アドバイザリー業務(3)

 4.カウンセリングの要諦

一つ目は聞き方である。何といっても、じっくりと相談者の話を聞くことに始まる。できるだけ話は遮らないようにしながら、悩みの本質に迫るよう適切な質問を投げかけていく。言葉を交わしていると次第に論点が整理されてきて問題の本質が浮き彫りになってくる。話を聞くにもテクニックがあって、丁寧に話を聞くとそれだけで満足する方もいる。
二つ目はノウフー(Know-Who)データベースを持つことである。多岐にわたる不動産リスクの全てに精通し即座に的確なアドバイスを行うことは神業で、一人では難しく、少なくとも私にその能力はない。必要なのは論点を整理し、それぞれの問題に精通した専門家が誰であるかを知っていること。それぞれの分野に長けた信頼できる実務家との協力関係を構築しておくことである。辞書に例えるなら目次は頭に入っていて、各項目の総論は整然と話ができるレベルにしておき、自身の専門分野以外の各論はその専門家に任せると言ったイメージである。と言っても大方のことはその場で整理し方向性を示すことができなければ相談者から信頼は得られないのだが。
不動産に関するリスクの整理(Know)と誰が詳しいか(Who)を知り、自身の人脈でノウフーデータベスが構築されていることが欠かせない。

2015.04.03

不動産よろず相談所 個人向け不動産アドバイザリー業務(2)

 2.個人が抱く悩み事の分類

不動産に関する悩み事と言っても人それぞれ異なり、多種多様である。これを整理するとき便利なのは、不動産運用の場面とリスク項目によるマトリクスから成る「不動産リスク一覧」である。横軸は開発時、取得時、保有・運用時、売却時等、不動産の運用サイクルをとる。個人の住居であれ収益用のマンションであれ、取得に始まり、保有期間中、売却時といった一連の運用時点によって問題は異なる。スタートは購入に限らず、自ら建築する場合もあるので開発時点もあれば相続による取得もある。終わりは売却のみでなく、老朽化した建物を解体することもあれば、相続や贈与で次世代に引継ぐこともある。縦軸は、不確定要因すなわちリスクを並べる。市場変動リスク(事業計画、資金調達、金利、需給、価格等)、法的リスク(許認可、権利関係、法律、税務等)、管理運用リスク(テナント、保有コスト、修繕、維持管理等)、物理的リスク(工事、耐震、環境、事故、災害、経年劣化)等である。
殆どの悩み事はこの表のどこかに位置するので、悩み事はリスクに置き換えることで整理ができる。
大都市でも地方都市でも、また、法人でも個人でも、大小の違いはあっても不動産に関する本質的な悩みは共通である。

【不動産リスクの図表】

3.ターゲット

資産家であっても緻密な戦略を持って不動産を保有している人は少ない。何年後に幾らで売るつもりなので今の自宅は長期修繕計画に沿って毎年メンテナンスを行っていますと言う話しは聞いたことがない。節税対策だと業者に進められて耕作をやめた農地に賃貸マンションを建てたが、一括借り上げで管理も業者に任せっきりで普段は建物を見に行くこともないと言うオーナーは多い。また、高齢で難しい話はわからないと言う資産家も多い。誰に相談していいか分からずに、普段気軽に話せる人がいるわけでもなく、問題が深刻な域に達していないので先送りしている人も多い。一度相談にのると、何かあったときに傍にいてくれると助かる存在だと気づいてくださる。個人でも中小企業でも、不動産に関する悩みは尽きることがない。地方都市でもターゲットは大勢潜在している。

2015.04.02

不動産よろず相談所 個人向け不動産アドバイザリー業務(1)

日本不動産カウンセラー協会(JAREC)の依頼を受けて、「個人不動産アドバイザリー部門」のビジネスモデルとして、不動産を保有する資産家に対する継続的なカウンセリングの方策についての拙文を月刊不動産鑑定(住宅新報社)に掲載頂きました。以下数回に分けて紹介させていただきます。

1.はじめに

筆者は地方都市に事務所を構える一介の不動産鑑定士である。大都市と異なり鑑定評価を依頼し慣れている民間の顧客は皆無で、不動産鑑定士と付き合ったことのない人が殆どという状況にある。不動産鑑定士と言う資格名称を耳にしたことはあるが、何をしてくれる人なのか、どのような時に訪ねれば良いのか分からないと言う印象を持たれているように思う。一方で、知人や税理士等の専門家を通じて、不動産で困っている方がいるので話を聞いてやって欲しいという依頼は結構ある。相談者の話を伺うと、境界で隣人と争っているとか、ローンの返済に窮しているとか、遺産分割で揉めているなど相談内容は多岐にわたる。収益不動産を購入しようか否か迷っていると言って不動産広告を持参する方もいる。みなさん不動産に関連して何らかの悩みを抱いている。価格を知りたいと言ってくる方は稀であるので、不動産鑑定士としては素直に喜べないのであるが、不動産に関する悩み事を聞いて、論点を整理して、解決の方向性を示すことで相談者はかなり満足してくださるのでやりがいがある。然るべき専門家を紹介して、解決することも多い。後日、無事に解決しましたと手土産を持参して事務所を訪ねてくださることもある。折に触れ不動産鑑定士の仕事や鑑定評価書が役に立つ場面を話しておくと、次の機会に評価の依頼者を連れてきて下さることもある。こんなことを続けながら、独立して十数年が経った。不動産で困ったらあそこに行けと言われるようになりたいと、「不動産よろず相談所」を掲げて不動産相談に応じている。顧問契約を結んで継続的なアドバイスを行う先もできた。手前味噌であるが、以下に弊社で行っている不動産保有資産家に対する継続的なカウンセリングの方策について述べてみたい。

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