湖畔からの発信 不動産鑑定士 村木康弘のひとり言
2015.04.05
不動産よろず相談所 個人向け不動産アドバイザリー業務(4)
5.不動産戦略の立案のビジネスモデル
スポット的な相談を機に、継続的なカウンセリングにつながるケースがある。私は以下のフローに従って不動産戦略を立案している。取り立ててビジネスモデルと言うには気が引けるほど単純なものである。CRE戦略のマネジメントサイクルと本質は変わらないが、個人の相談者が相手であるので、簡略化して平易な言葉に置き換えたものだ。
(1)所有者の目標明確化
例えば、200坪の未利用地をお持ちの場合、そこをどの様に活用しようか?から入ると最適解を得られない場合がある。その方の資産状況を把握して、まず何を行うべきか目標を明確化することがカウンセリングの第一ステップである。その土地の最有効使用が共同住宅であったとしても、借入金が多く返済負担が重い方に新たな資金調達を伴う賃貸マンションの建設を提案するのは問題で、売却して得た資金を借入金の返済に充てるのがより良い選択ということもある。要は、個別の不動産の活用を検討する前に、その方のポートフォリオを把握して、将来の目標を定めることである。
(2)不動産の棚卸し
保有不動産を個別に調査し、現状と潜在能力を把握する。自宅であれば建物の維持管理の状態や修繕の必要性を指摘し、仮に今売却したら幾らなのか凡その時価を把握する。賃貸マンションであれば、最有効使用の状態にあるのか、入居状況、賃料水準の妥当性、契約書に不備はないか、維持管理の内容と費用は妥当か、行政法規や賃貸借の状況、借入金の条件や返済状況についても調べて問題点があれば指摘する。調査事項は多岐にわたるが、後々誤った判断に至らないために一度は洗い浚い調べておくことが望ましい。
個々の不動産をどのように利活用していくか戦略を立案するに当たっては、流動性と収益性の二つの指標に照らして、個々の不動産の属性を決めていく。縦軸に収益性、横軸に流動性を取り、それぞれ5段階で優劣を付け、個々の不動産を座標上に明示する作業である。賃料水準が高く潤沢な収益を生み出し、売りに出せばすぐ買い手が見つかるような収益性も流動性も申し分ない物件は座標の右上に位置づける。収益を生み出しておらず、売ろうにも売れない物件は左下に位置づける。個々の不動産をどこに位置づけるかはカウンセラーの腕の見せ所である。
分類した結果、右上の第一象限に位置する物件は「残す不動産」、すなわち今後も保有し続ける不動産である。左下に位置する不動産は「組み替える不動産」で、売れるなら早いうちに手放しましょうと言うもの。先祖伝来の愛着ある不動産がここに位置づけられると、処分されずにポートフォリオの改善が進まないことが起き得る。右下に位置するのは「利用する不動産」。昔から貸している土地(底地)が典型で、僅かな地代収入があるが、大幅な地代上昇は見込めないうえ、売ろうにも第三者には売れない。遺産分割未了の共有名義の物件もここに位置づける。左上に位置するのは「備える不動産」。未活用の空地等で、収益は上がってないが、すぐにでも買手が見つかり、どんな用途にでも利用できるような物件が該当する。